ドメーヌワインは、生産者がブドウ栽培からワインの醸造・瓶詰めまでを一貫して自社で行うワインです。そのため、土地の個性や気候、そして生産者の思想がワインに深く刻み込まれています。ドメーヌワインはそのストーリー性の強さからワイン愛好家にとって特別な選択肢となっています。以下の表は、ドメーヌワインとその他のワインの強みと弱みを比較したものです。
分類 | 特徴 | 強み | 弱み |
ドメーヌワイン |
自社栽培・自社醸造・自社瓶詰め |
- 生産者の個性と土地の個性が強く反映 |
- 生産コストが高く価格が高め |
自社で醸造のみ |
他農家からブドウ購入・自社醸造 |
- 安定した供給量と品種の多様性 - 醸造設備に投資を集中できる |
- ブドウ品質のコントロールが難しい - 生産者の個性が薄れがち |
自社で栽培のみ |
自社栽培・他社で醸造 |
- 栽培に専念し高品質なブドウ生産を実現 |
- 醸造工程のコントロールが制限される |
ドメーヌワインの世界トレンド
近年、ドメーヌワインは世界的に持続可能な農業や自然との共生を大切にする生産者によって再評価されています。フランスの「ブルゴーニュワイン」はその代表格で、希少性と品質の高さから価格が高騰し、多くのワイン愛好家が新たなドメーヌワインの選択肢を求めています。
以下の要因から、日本におけるドメーヌワインの生産は増加し、その質も向上しています。生産者たちの情熱と努力が結実したドメーヌワインは、日本ワインの多様性と魅力をさらに高めています。
・ワイン特区の導入:
全国でワイン特区の導入が拡大し、小規模零細ワイナリーの設立が容易になりました。国税庁の「構造改革特別区域法による酒税法の特例措置の認定状況(令和6年3月認定分まで)」によると、ワイン含む果実酒に関連した特区認定数は全国で111に上り、小規模生産の強みを発揮するため、ブドウの栽培からワインの醸造・販売までを一貫して行うドメーヌ形式によって、より個性を重視したワインメイキングを追求する新規参入の生産者が増えています。
・自社栽培による自助努力の必要性:
高齢化によるブドウ栽培農家の減少と新興ワイナリーの急増により原料ブドウの調達が困難になっています。この状況下で、安定した原料確保と品質管理を実現するため、生産者自らがブドウを栽培する必要性が高まっています。
・ドメーヌタカヒコの成功:
北海道余市のドメーヌタカヒコは、日本におけるドメーヌワインとして高い評価を受け、その成功は他の生産者に大きな刺激を与え、ドメーヌ形式でのワイン造りを志す生産者が増加する一因となっています。
・カスタムクラッシュ業者の登場:
岩見沢の10Rワイナリーに代表されるカスタムクラッシュ業者の誕生により、新規就農やワイン造りを志す次世代の意欲ある造り手が集まっています。彼らは設備投資の負担を軽減しつつハイレベルでユニークなワイン造りのノウハウを吸収することで、ドメーヌワイン生産に向けた環境を整えやすくなっています。
・ブルゴーニュ信仰の強さ:
日本ワイン業界では、ブルゴーニュに強く影響を受けた新興ワイナリーやワイン愛好家が多く、日本独自のテロワールを表現できるドメーヌ形式のワイン造りへの関心が強い傾向がみられます。
日本のドメーヌワインは、生産量が少なく安定した供給が難しいという課題を抱えています。これはブドウ栽培において、気候変動や自然災害の影響を受けやすく、品質と生産量の維持が難しいためです。また、小規模生産のため、生産コストが高く価格が上昇しやすいことが一般消費者への普及を阻む要因となっています。さらに、新興ワイナリーではブランド認知の低さや流通網の拡大が課題であり、これらが市場拡大を妨げています。一方で、生産者の個性や地域のテロワールを強く反映するドメーヌワインは、ストーリー性や希少性を求めるワイン愛好家の注目を集めており、わいんびとのようなオンラインプラットフォームを活用することでも、新たな市場やファン層を開拓するチャンスがあります。また、持続可能な農業への取り組みやデジタル技術の活用も、ブランド価値向上や新規顧客獲得につながってきています。
・思想やスタイルに共感できる生産者を選ぶ:
ドメーヌワインは、栽培や醸造における生産者の思想やスタイルが色濃く反映されるため、ワインを味わう際にそのバックグラウンドを感じ取ることができます。自分が共感できるドメーヌワインを選ぶ楽しさもあります。
・ヴィンテージの違いを追いかける:
ドメーヌワインは、毎年異なるアプローチやチャレンジを行うことが多く、ヴィンテージごとの味わいの変化を楽しむことができます。年ごとの気候や生産者による味わいの違いを感じることで、ワインの奥深さや自然の影響を実感できます。また、継続的に追いかけることで、自分自身の味覚の成長や新たな発見も楽しめます。
・希少性を味わう:
ドメーヌワインのほとんどが数百本から数千本という少量生産です。コレクション性の高い希少なワインを手に入れることで満足感を得られます。また、同じ嗜好性の仲間と楽しむことで、より特別なワイン体験を過ごせます。
ドメーヌワインを生産しているわいんびと生産者パートナーの思想やスタイルの一部をご紹介します。
了美ヴィンヤード&ワイナリー(宮城県)
ワイナリー設立から9年間に渡る試行錯誤を経て、2023年ヴィンテージでようやく単一品種によるドメーヌワイン(5種類)の製造を実現しました。ワインのスタイルを一言でいうと「スマートなバランスと調和で、食卓を豊かに彩るワイン」。良いワインは、香りにおいても味わいにおいてもバランスが重要で何かが突出してはいけないし、調和のとれたものが飲み手にも安心感を与えてくれるものだと考えています。
サンマモルワイナリー(青森県)
東北を代表するドメーヌワインの一角として、青森県のワイン産業をけん引しています。むつ市に広がる広大な自社畑では日本屈指のピノノワールを中心に、オリジナル品種の栽培にも積極的です。ワインのスタイルを一言でいうと「青森の冷涼な気候らしいシャープな酸味と、その品種らしい香りが感じられる世界基準のクラシックなワイン」。世界品質を意識したワイン造りで、魅力的なドメーヌワインを次々と世に送り出しています。
高橋葡萄園(岩手県)
個人ワイナリーながら、熱狂的なファンが多く、岩手県の若手生産者からも絶大な信頼を得ている岩手ワイン界をけん引する存在です。ワインのスタイルを一言でいうと「酸がしっかりあって芯があるが、果実の味わいはやわらかいワイン」。「品質はぶどう畑で育つ(Qualität wächst in Weingarten)」を信条に、畑でぶどうのいいところを育て、醸造で収穫したぶどうのいいところをいかに削らずにワインにするか、を意識した造りを心掛けています。
大迫佐藤葡萄園(岩手県)
樹齢30年に迫る高樹齢の畑で風味豊かなブドウが収穫できる環境を活かし、データを活用したスマート農業を取り入れることでより効率的な品質向上の実現を目指し、人材不足に苦しむ日本ワイン界の未来を切り拓く取り組みを進めています。ワインのスタイルを一言でいうと「大迫町らしさを健全なぶどうだけで表現したクリアなワイン」。冷涼な酸味と果実味があり、重くないがエキス感があって飲み心地がいいワインが評判です。
ART PAYSAN WINERY(岩手県)
社会貢献型のエシカルワイナリーとして、多様な適正を持ったスペシャリストたちが日々畑でぶどうの品質を磨き上げています。そのぶどうから造られるワインのスタイルを一言でいうと「ひとりひとりの力を尽くして、ぶどうの品質を磨き上げた本当においしいワイン」。最高のワインを造るために、シンプルですが「どこにも真似できない丁寧な仕事で、ぶどうの品質を芸術の粋まで磨き上げること」を追求しています。