日本の国民食である、揚げ物。ワインのペアリングでは油っぽさを抑えつつ、素材の旨味を引き出すことが重要です。このため、揚げ物に合わせるワインには、酸味とフルーティさ、そして料理と調和する適度なボディ感が求められます。ワインの酸味が口の中の油分をさっぱりと洗い流し、フルーティな味わいが素材の旨味と調和し、バランスの良いマリアージュが実現します。さらに、揚げ物はソースやディップを添えることが多いため、ワイン選びの際は食材とソースの味わいの組み合わせにも注意が必要です。わいんびとでは、定番の「唐揚げ」「チキン南蛮」「とんかつ」「コロッケ」「天ぷら」「エビフライ」を取り上げて日本ワインとの相性を紐解いてみました。
唐揚げは、揚げ油の香ばしい風味と鶏肉のジューシーな旨味が一体となり、口の中でコクを感じさせる料理です。ワインを合わせる際、油分をさっぱりとリセットする役割を果たす酸味が必要であり、フレッシュな白ワインが理想的です。レモンやポン酢の酸味が加わることで一層の調和を生みます。鶏肉のジューシーな旨味を引き立てるために、フルーティなニュアンスと甘味が感じられるロゼワインも合わせやすいです。酸味が油分を切りつつ、フルーティな香りが鶏肉の甘みを引き立てるため、軽やかでリフレッシュ感のあるマリアージュが実現します。
おすすめのワイン
ロゼッタ・スパークル / ART PAYSAN WINERY(岩手県)
シャルドネ、ツヴァイゲルトレーベ、マスカット・ベーリーA、プティマンサンの4種類のぶどうをブレンドして造った珍しいロゼ・スパークリングワインです。優しく輝く泡とピュアな果実味、フレッシュな酸味が織り成す爽やかな味わい、赤い果実の中に柑橘類やバラなどの複雑なアロマが楽しめます。
マリアージュのポイント:唐揚げの揚げ油の香ばしさと肉のジューシーさ、レモンやポン酢を添えた場合でもロゼスパークリングの酸味と炭酸で爽快感のあるペアリングが楽しめます。また、フルーティで華やかな香りが、鶏肉のジューシーさを引き立て、懐の深いマリアージュが完成します。
山のブラン / 大迫佐藤葡萄園(岩手県)
自社圃場のソーヴィニヨンブラン60%、リースリングリオン40%のブレンド。リースリングリオンは、リースリングと甲州三尺の交配品種で、岩手を代表する白ワイン品種です。リンゴや洋梨を想わせる香りと味わい、爽やかな口当たりから続く微かな甘みをほろ苦さが引き締める辛口ワインです。
マリアージュのポイント:岩手特有のシャープな酸味が、唐揚げの油分をすっきりと中和し、青リンゴやハーブのニュアンスがレモンやポン酢の酸味とも相性良く、味わいが引き締まります。さらに、フルーティな果実味が鶏肉の風味を引き立て、マリアージュに軽快さとリフレッシュ感をもたらします。
チキン南蛮は、鶏肉のジューシーな旨味に、南蛮酢とタルタルソースが織りなす複雑な味わいが魅力の料理です。南蛮酢の甘みとワインのフルーティさが相乗効果を生み出し、タルタルソースが濃厚な旨味を引き立てるため、チキン南蛮に負けないしっかりとした味わいのワインが必要です。樽熟成した白ワインなど、酸味と果実味が調和したリッチな味わいの白ワインが理想的です。甘酸っぱさとクリーミーさに調和するリッチな味わいと、ふくよかな酸味で油分をリセットしてくれます。またフルーティな香りと軽快な飲み口の赤ワインもおすすめです。今回、チキン南蛮に合わせたおすすめの日本ワインは、樽熟成シャルドネと軽快なマスカット・ベーリーAですが、それぞれのワインがチキン南蛮の多様な風味と美しく共鳴し、それぞれ異なるマリアージュ体験を楽しむことができます。
おすすめのワイン
ラ セリー美 シャルドネ / 了美ヴィンヤード&ワイナリー(宮城県)
宮城県黒川郡大和町(自社圃場)のシャルドネ100%。糖度と酸度のバランスが良く、香り豊かなブドウを最高のタイミングで収穫して醸造しました。樽熟成しており、ナッツやバターのニュアンスに豊かな果実味とコクのあるボディに加え、すっきりとしたクリアな酸味が上手に調和した、魅力的な味わいの白ワインです。
マリアージュのポイント:シャルドネのふくよかな酸味が、チキン南蛮の油分をさっぱりとリセットしながら、樽熟成により深みのある味わいで南蛮酢の甘酸っぱさとタルタルソースのクリーミーさに見事に調和します。
百花マスカット・ベーリーA / せらワイナリー(広島県)
世羅町で収穫されるマスカット・ベーリーAは、高糖度で色づき良く、過去多くの受賞歴がある赤ワインの主力品種です。品種の特徴であるベリー系の甘やかな香りやしっとりとした果実味を、せらワインらしく素直に表現しました。木樽で1年間熟成させたことによる深みを感じつつも、樽香は控えめで味わいは穏やかです。
マリアージュのポイント:フルーティで軽快な味わいが、南蛮酢の甘酸っぱさと共鳴しタルタルソースの濃厚さを程よく中和し、チキン南蛮の多層的な味わいを豊かに感じることができます。鶏肉のジューシーな旨味を引き立てつつ、果実味が華やかさを添え、軽やかな飲み口が後味をさっぱりと締めくくります。
とんかつは、豚肉のジューシーで濃厚な旨味と、サクサクとした衣の食感が楽しめる料理です。このリッチな味わいとワインの相性を考える際、ポイントとなるのは、料理の脂分と濃厚さを引き立てつつもバランスを保つ「酸味」と「果実味」です。ここで選びたいのは、軽やかでフルーティなミディアムボディの赤ワインです。日本の赤ワインの持つフルーティな果実味が、豚肉の甘みを引き出すことで、素材の味わいが一層豊かに感じられます。また、とんかつソースの甘みとも調和しやすく、フルーティな香りがソースのコクを軽やかに包み込み、とんかつの旨味とサクサク感を際立たせてくれます。柔らかな酸味と控えめなタンニンは、脂っこさを軽やかに抑え、後味をさっぱりとまとめてくれる点も重要です。この組み合わせにより、次の一口を誘うリフレッシュ感が生まれ、最後まで飽きることなく食事が楽しめます。
おすすめのワイン
メルロ / はすみふぁーむ&ワイナリー(長野県)
自社畑含む信州産メルロ使用。野生酵母で発酵、オーク樽で熟成し、より複雑味も増し、成熟したまろやかさが心地よいワインに仕上がりました。メルロらしさがよく表現された、きめ細やかなタンニンがあり、優しく口当たりの良い赤ワインです。
マリアージュのポイント:メルローの豊かな果実味が豚肉の甘みを引き立て、ソースの甘みとも調和します。樽熟成によるスパイスの香りがとんかつソースの風味と重なり、深みのある味わいとなります。また、滑らかなタンニンと柔らかな酸味が、油分をさっぱりとまとめてくれるため、豚肉の旨味とワインのコクが互いを引き立て合い、飽きることなく豊かな風味が長く続くマリアージュが実現します。
ラ セリー了 ピノノワール / 了美ヴィンヤード&ワイナリー(宮城県)
宮城県黒川郡大和町(自社圃場)のピノノワール100%。樽熟成をし、高品質な宮城県産ワインを目指して造られているミディアムボディの赤ワイン。チェリーやフランボワーズ、スミレのような香りを持ち、酸味と果実味のバランスの取れた上品で魅惑的な味わいです。
マリアージュのポイント:ピノ・ノワールの軽やかな酸味とフルーティな果実味が、とんかつのジューシーさを引き立てつつ、赤系果実の香りがとんかつソースの香味と程よく調和し軽やかに包み込みます。ピノ・ノワールのエレガントなタンニンが、濃厚なとんかつの味わいを飽きることなく優しく支え続けてくれます。
定番コロッケは、じゃがいもの甘みとホクホクした食感が楽しめる料理です。牛肉を入れたメンチカツやカニクリームコロッケなど、人気のバリエーションも日本の食卓に定着しています。コロッケには、基本的に軽やかな酸味と果実味のある赤ワインが合います。日本ワインの柔らかなタンニンがじゃがいもの甘みを引き立て、軽やかな酸味が油分をほどよくカットします。じゃがいもの繊細な甘みを壊さずに引き出す点で、ライトなワインが効果的です。また、カニクリームコロッケでは、ベシャメルソースやカニ(具材)の濃厚な風味とよく使われるトマトソースの酸味を引き立てるワインを選ぶことで、相性の良いマリアージュが楽しめます。たとえば、カニの甘みとクリーミーな食感には、少しリッチで厚みのある白ワインや酸味とコクがあるオレンジワインがぴったりです。特に樽熟成された白ワインは、バターやクリームのような風味を持ち、クリームソースの濃厚さと調和します。日本ワインならではの柔らかな酸味とボディ感が、カニの甘みを引き立てつつ、リッチさをしっかり受け止めてくれます。
おすすめのワイン
下北ワインRyo Classic / サンマモルワイナリー(青森県)
下北半島で栽培に成功した、サンマモルワイナリーの代表品種ピノ・ノワールを100%使用。色調は深みのあるルビー色、クランベリーやラズベリーのジャム、プラム、赤スグリなどのチャーミングな赤系果実やオレンジスパイス、紅茶を想わせる香りで、口に含むと広がる良く熟した苺をかじった様な瑞々しいたっぷりとした果実味と酸味のバランスが取れた味わいです。
マリアージュのポイント:ピノ・ノワールの柔らかな酸味とライトな果実味が、繊細なじゃがいもの甘みとホクホクした食感を引き立てます。北国らしいフレッシュな酸味がさっぱりと口の中をリフレッシュさせてくれます。また、牛肉が使われているメンチカツの場合でも、スムーズなタンニンと繊細な果実味が肉の旨味を引き立て一層豊かな味わいに引き上げます。
Polaris 竜眼オレンジ / LE MILIEU(長野県)
全国で唯一の竜眼を使用したオレンジワインです。淡いオレンジ色、少し還元的な香り、薬草やハーブ、レモンの柑橘的な香りがあり、みかんのような柔らかな酸味と果実味、ほのかなタンニンにアフターに残る微かな苦みが感じられます。
マリアージュのポイント:オレンジワインの酸味とコクは、特にカニクリームコロッケとの相性が抜群です。クリーミーなベシャメルソースとカニの甘みに対して、相乗効果を生み出します。トマトソースが添えられる場合でも、オレンジワインの酸味がトマトの酸味と共鳴し、味の奥行きが増します。
天ぷらは食材そのものの繊細な味わいが中心であり、軽やかな衣がその風味を閉じ込めて活かす役割を果たしている料理です。天つゆや大根おろしを添えて食べることが多いです。ここでのワインの役割は、素材の風味を損なわずに引き立て、口の中をリフレッシュさせることです。天ぷらのシンプルで上品な味わいに合うワインとして、フルーティな果実味は控えめに、酸味とミネラル感がバランス良く感じられるスタイルが最適です。これにより、天ぷらの素材の持つ風味と、天つゆの出汁の風味と、大根おろしのさっぱりとした風味が加わることで、味わいの複層性が楽しめるマリアージュが完成します。
おすすめのワイン
麻屋甲州シュールリー / 麻屋葡萄酒(山梨県)
勝沼町産の甲州種を100%使用し低温にて発酵後、約4カ月のシュールリー熟成。甲州葡萄を食べた時の果実味を表現することにこだわった旨味系の白ワインです。柚子やカボスなどの和柑橘を想わせる香りと葡萄本来の酸、シュールリー熟成による旨味が調和した味わい深い辛口白ワインです。
マリアージュのポイント:シュールリーによる旨味が、特に山菜系や魚介の天ぷらとよく合い、大根おろしの辛みを柔らかく引き立てます。天ぷらの油分を抑えつつも大根おろしと天つゆの出汁の風味を引き立て、素材の味わいを引き出しながら調和を保ちます。
小豆シャン(Azu Cham) / 224WINERY(香川県)
2023年は山形県と大阪府から、平均糖度22%の完熟デラウェアを仕入れて瓶内二次発酵で醸造した、本格派の味わいが魅力のスパークリングワインです。甘くスモーキーでややビターなフィニッシュ。デラウェアの魅力が全面に出た仕上がりになっています。
マリアージュのポイント:大根おろしのさっぱりとした風味と出汁のうま味を補完し、天ぷらの食感をさらに引き立てます。泡が口の中をリフレッシュし、重さを感じさせないマリアージュが楽しめます。
エビフライは日本発祥の洋食で、エビの甘みとプリッとした食感が特徴的な料理です。この料理に合うワインを選ぶ際には、エビの風味や食感、タルタルソースの濃厚なコクとの相性が重要です。エビの甘みを引き立て、タルタルソースのリッチな味わいにしっかりと寄り添うため、フルーティで酸味のある白ワインや、瓶内二次発酵による本格的なスパークリングワインが選択肢として浮上します。特にソーヴィニヨン・ブランは、エビ本来の甘みを引き立てさわやかな柑橘系の酸味がエビフライの油分をさっぱりとリフレッシュし、タルタルソースの酸味とも調和してエビフライ全体のバランスを整えます。また、瓶内二次発酵スパークリングワインは繊細な泡立ちと酵母由来のコクを備え、ブリオッシュやナッツのリッチな香りがエビフライの香ばしい衣とタルタルソースのクリーミーさと絶妙に調和します。泡の心地よさが衣のサクサク感と重なり、タルタルのコクを引き締め、最後まで飽きないバランスの取れたマリアージュを提供します。
おすすめのワイン
ラ セリー美 ソーヴィニヨンブラン / 了美ヴィンヤード&ワイナリー(宮城県)
宮城県黒川郡大和町(自社圃場)のソーヴィニヨンブラン100%。標高が高い畑では、糖度と酸度のバランスが良く、香り豊かなブドウが実ります。シュールリー製法で旨味を引き出し、樽熟成して高品質な宮城県産ワインを目指して造られている辛口の白ワイン。グレープフルーツなどの柑橘系の香り豊かで、ハーブのニュアンスがあり、軽やかでフレッシュな味わいが楽しめます。
マリアージュのポイント:ソーヴィニヨン・ブランの柑橘系の香りと爽やかな酸味が、エビフライの油分をリフレッシュし、エビの甘みを引き立て、エビフライ全体の味わいを上品に仕上げます。タルタルソースのクリーミーさと酸味にも自然に寄り添い、ワインのフルーティな風味が全体のバランスにふくよかな広がりをもたらします。
下北ワイン Ryo Sparkling / サンマモルワイナリー(青森県)
青森県むつ市下北圃場栽培のシャルドネ、ピノ・ノワールを100%使用し、シャンパーニュ方式で2年間熟成し醸造したスパークリングワインです。コクがあり完熟りんごのような味わいと、きめ細かく溶け込んだ繊細で柔らかな泡立ちです。
マリアージュのポイント:スパークリングワインの泡がエビフライのサクサクした衣に心地よく絡み、食感にリズムを与えます。さらに、酵母由来のブリオッシュやナッツのようなコクが、エビフライの香ばしい衣と濃厚なタルタルソースと相性抜群で、全体の味わいに奥行きを加えます。このリッチな風味がエビフライの甘みを引き立て、泡の細やかさがタルタルソースのクリーミーさと対比的なハーモニーを奏でます。酸味とコクが調和したスパークリングワインは、揚げ物のリッチさをさっぱりと引き締め、食後の余韻も心地よく残します。
その他にも、日本にはご当地コロッケやフライドポテト、串カツ、カキフライなど、様々な揚げ物が国民食として浸透していますので、今回のペアリングガイドを参考に日本ワインとの組み合わせを試してみてください。ぴったり合うワインが見つかった時の喜びは格別ですので、お好みの組み合わせを探してみるのも日本ワインの楽しみ方のひとつです。